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福島地方裁判所 平成8年(行ウ)3号 判決 1998年4月03日

福島県大沼郡会津高田町大字吉田字村中乙二一一番地

原告

長嶺力

福島県会津若松市城前一丁目八二番地

被告

会津若松税務署長 成田守

右指定代理人

伊藤繁

栗野金順

佐藤昇

蒲田公夫

菅野正孝

新田公夫

佐藤富士夫

佐藤正春

主文

一  本件訴えをいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の申立て

一  原告の申立て

1  被告が平成六年七月五日付でした原告の平成三年分の所得税の更正処分並びに平成四年分及び平成五年分の所得税の更正処分及び過小申告加算税負荷決定をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告の申立て

1  本案前の答弁

主文同旨

2  本案の答弁

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は拳固の負担とする。

第二事案の概要

一  本件は、被告が原告に対してなした平成三年分の所得税の更正処分並びに平成四年分及び平成五年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税負荷決定(以下「本件更正処分等」という。)は、原告が後記自然医食療法を唱える医師の指示を受けて後記自然医食品等を購入したり、その医師の診療を受けるために宿泊施設に宿泊したこと等のために支出した費用が所得税法七三条二項、所得税法施行令(以下「施行令」という。)二〇七条に基づく医療費控除の対象であるのに、被告がこれらの費用を医療費控除の対象として認めず本件更正処分等をなしたので、本件更正処分等は違法である等として、本件更正処分等の取消を求め、被告は本件訴えは出訴期間を徒過した後に提起された不適法な訴えであり、仮に不適法でないとしても、原告主張の右各費用は所得税法七三条二項、施行令二〇七条の定める医療費控除の対象となる費用ではなく、したがって、本件更正処分等は適法になされた等と反論している事案なのである。

二  争いのない事実等

1  原告は福島県南会津郡会津高田町役場に勤務する傍ら農業を営んでおり、給与所得及び農業所得を合算申告とするいわゆる白色申告者である(弁論の全趣旨)。

2  原告は、平成四年二月二五日確定申告を行い、平成三年分の医療費控除として、医師、歯科医師に支払った診療費金八万四三三〇円、治療、療養に必要な医薬品の購入費金四八万三六九五円及び通院費等金二四万一三七九円の合計金八〇万九四〇四円を医療費控除の対象となる医療費の金額であるとして、右医療費の金額から金一〇万円を差し引いた金七〇万九四〇四円が医療費控除の金額であると申告した。

原告は、平成五年二月一五日確定申告を行い、平成四年分の医療費控除として、診療費等金八万二〇九〇円、医薬品等購入費金九九万五二一七円及び通院費等金二七万六五九三円の合計金一三五万三九〇〇円を医療費控除の対象となる医療費の金額であるとして、右医療費の金額から金一〇万円を差し引いた金一二五万三九〇〇円が医療費控除の金額であると申告した。

原告は、平成六年三月四日確定申告を行い、平成五年分の医療費控除として、診療費等金二四万八〇四〇円、医薬品等購入費金八四万七〇一二円及び通院費等金二七万七二四七円の合計金一三七万二二九九円を医療費の金額であるとして、右金一三七万二九九九円から金一〇万円を差し引いた金一二七万二九九九円が医療費控除の金額であると申告した(以下、乙第一ないし第三号証、第七ないし第九号証、弁論の全趣旨)。

3(一)  被告は原告に対し、平成六年七月五日付で、平成三年分の所得税の更正処分並びに平成四年分及び平成五年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分である本件更正処分等をした。

(二)  本件更正処分等は次のとおりの内容である。

(1) 平成三年分の所得税の更正処分は、医療費控除の金額を金一五万八〇八〇円と更正した。

(2) 平成四年分の所得税の更正処分は、医療費控除の金額を金一三万〇九一〇円と更正した。

(3) 平成四年分の所得税の過小申告加算税賦課決定処分は過少申告加算税を金一万一〇〇〇円と決定した。

(4) 平成五年分の所得税の更正処分は、医療費控除の金額を金二二万一一〇四円と更正した。

(5) 平成五年分の所得税の過少申告加算税賦課決定処分は過少申告加算税を金七〇〇〇円と決定した(以上、甲第一二ないし第一四号証)。

4  原告は被告に対し、平成六年七月一四日、本件更正処分等に対する異議(以下「本件異議申立て」という。)の申立てをした(甲第一五号証の一)。

5  被告は原告に対し、平成六年一〇月一三日付で、本件異議申立てをいずれも棄却する棟の決定を行った(甲第一五号証の一、二)。

6  原告は国税不服審判所長に対し、平成六年一一月七日付で、本件更正処分等の取消を求めて審査請求(以下「本件審査請求」という。)を行った(甲第五号証、第一六号証、第一七号証の一、二、第二二号証の二)。

7  国税不服審判所長は原告に対し、平成七年一二月一二日付で、本件審査請求をいずれも棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)を行うとともに、原告に対し、同月一四日付で本件裁決書謄本を発送し、これは同月一五日原告方に配達された(甲第二二号証の一、二、弁論の全趣旨)。

8  原告は平成八年三月一五日、当庁に対し、本件訴えを提起した(弁論の全趣旨)。

三  原告の主張

1  国税不服審判所長からの原告の本件審査請求を棄却する旨の本件裁決書謄本が原告方に配達されたのは、平成七年一二月一五日であるが、原告が本件裁決書謄本が入った封筒を開封して本件裁決のあったことを知ったのは同月一七日以降であり、原告の本件訴えの提起は同日から三ケ月以内である平成八月三月一五日になされたので、原告の本件訴えは適法である。

2(一)  原告は森下敬一医師(以下「森下医師」という。)が昭和四五年に創設したお茶の水クリニック(以下「本件クリニック」という。)において、診療を受けているところ、森下医師は東西両医学を止揚した第三の医学たる自然医学理論に基づく独自の浄血自然医食療法(以下「自然医食療法」という。)を診療方針としており、その診療の基本は、一切の化学薬品を廃して、整腸に重点を置き、<1>玄米・菜食、<2>健康強化食品、<3>薬草・野菜茶(以下、<1>ないし<3>を一括して「自然医食品等」という。)を三本柱として、諸々の根治を図るというものである。

(二)  所得税法七三条二項の立法者の意思は医療費控除の対象を現代西洋医学を中心に規定する趣旨であったと解されるものの、法の解釈は立法目的に照らして通常人の感覚に適合するように合理的になされるべきであり、そうであるとすれば、所得税法七三条二項の医療費とは、医師の診療を受けたことによる費用を指称すると解するのが相当である。

(三)  したがって、自然医食品等の購入費用は、施行令二〇七条一号の規定する「医師による診療の対価」に包含されると解するのが相当である。

宿泊費については、「診療の際は、親戚等に宿泊して通常の状態にて来所するように。親戚等がない場合は、クリニックで紹介します。」との本件クリニックの要請により、原告が宿泊した宿泊施設の宿泊費用であって、これは医師の診療を受けるために直接必要な医療費に含まれると解される。

右の自然医食品等の購入費用及び宿泊費等が右の所得税法七三条二項、施行令二〇七条等の定める医療費の範囲に含まれないとすれば、かかる所得税法等の規定は憲法一三条に違反する。

(四)  しかも、被告は原告に対して、本件更正処分等における課税の根拠を明確にすることができないまま、問答無用の闇討ち的感覚で本件更正処分等を行ったものであって、かかる手続による本件更正処分等は、公務員としての職権濫用に該当するものというべきであり、国家賠償法一条等にも違反することから、本件更正処分等は違法無効である。

(五)  以上によれば、自然医食品等の購入費用及び本件クリニックにおいて診療を受けるために宿泊した宿泊施設の宿泊費用を医療費控除の対象に当たらないとした被告の判断には誤りがある他、同判断に至る手続にも職権濫用等の瑕疵があることから、右の判断、手続に基づいてなされた本件更正処分等は違法である。

四  被告の主張

1(一)  取消訴訟は、処分があったことを知った日から三箇月以内に提起しなければならず(行政事件訴訟法一四条一項)、右期間は、処分につき審査請求をすることができる場合において、審査請求があったときは、その審査請求をした者については、これに対する裁決があったことを知った日から起算される(同条四項)。この場合、裁決があったことを知った日を初日として右期間に算入することになる。なお、審査請求に対する裁決が審査請求人に対して送達されたときは、特段の事情がない限り、請求人は送達を受けた日に裁決があったことを知ったものと推定される。

(二)  本件では、原告が国税不服審判所長に対し、平成三年分ないし平成五年分の所得税の各更正処分並びに平成四年分及び平成五年分の過少申告加算税の各賦課決定処分について本件審査請求し、本件裁決書謄本は平成七年一二月一五日原告に対して郵便により送達された。それゆえ、本件の場合、原告は特段の事情がない限り、本件裁決書謄本の送達を受けた日に裁決があったことを知ったものと推定される。本件にはこの推定を覆すに足りる事情は存在しない。

(三)  したがって、本件訴えは、前期の出訴期間を既に経過した後の平成八年三月一五日に提起されたものであるから不適法であって却下を免れない。

2  納税者が確定申告書を提出すれば、原則として、それによって納税義務が確定するのであって(国税通則法一六条)、納税者が確定申告書の記載の錯誤無効を主張しうる特段の事情の存する場合以外は、納税者が自己の申告にかかる所得金額が過大であるとしてその是正を求めようとする場合には、所得期間内に更正の請求をなすことが要求されており(国税通則法二三条、所得税法一五二条)、更正の請求を経ていないときは、税務署長による増額更正のうち申告額を超えない部分は納税者にとって不利益な処分であるということができず、その取消を求める訴えの利益を欠き不適法であると解される。

したがって、原告の、平成三年分の所得税の更正処分の取消を求める訴えのうち、総所得金額金七七万六〇〇〇円を超えない部分及び平成四年分所得税の更正処分の取消を求める訴えのうち、総所得金額金三二万七〇〇〇円を超えない部分はいずれも訴えの利益を欠き不適法である。

3(一)  所得税法七三条一項は、「居住者が各年において、自己又は自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る医療費を支払った場合において、その年中に支払った当該医療費の金額(保険金、損害賠償金その他これらに類するものにより補てんされる部分の金額を除く。)の合計額がその居住者のその年の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計金額の合計額の一〇〇分の五に相当する金額(当該金額が金一〇万円を超える場合には、金一〇万円)を超えるときは、その超える部分の金額(当該金額が金二〇〇万円を超える場合には、金二〇〇万円)を、その居住者のその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額から控除する。」と規定して、医療費控除の制度を定めている。これは、シャウプ勧告を受けてなされた昭和二五年の税制改正により、医療費が多額で異常な支出となる場合における担税力の減殺を調整する目的で創設されたものである。

(二)  所得税法七三条二項は、医療費控除の対象となる医療費につき「医師又は歯科医師による診療又は治療、治療又は療養に必要な医薬品の購入その他医療又はこれに関連する人的役務の提供の対価のうち通常必要であると認められるものとして政令で定めるものをいう。」と規定している。そして、右規定を受けて施行令二〇七条は、「法七三条二項(医療費の範囲)に規定する政令で定める対価は、次に掲げるものの対価のうち、その病状に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額とする。」として、医療費控除の対象となる対価を次のとおり限定列挙している。

(1) 医師又は歯科医師による診療又は治療

(2) 治療又は療養に必要な医薬品の購入

(3) 病院、診療所又は助産所へ収容されるための人的役務の提供

(4) あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律三条の二に規定する施術者又は柔道整復師法二条一項に規定する柔道整復師による施術

(5) 保健婦、看護婦又は准看護婦による療養上の世話

(6) 助産婦による分べんの介助

(三)  施行令二〇七条一号及び二号の判断基準

(1) 所得税法七三条二項は医療費控除の対象となる医療費につき、「医師又は歯科医師による診療又は治療…のうち通常必要であると認められるものとして政令で定めるものをいう。」と規定し、これを受けて定められた施行令二〇七条は「その病状に応じて一般的に支出される水準を著しく超えない部分の金額とする。」と規定している。これらの規定内容に医療費控除の制度が、医療費が多額で異常な支出となる場合における担税力の減殺を調整する目的で創設されたものであり、所得税の公平な負担を図るための制度であることを併せ考慮すると、施行令二〇七条で医療費控除の対象となる「医師又は歯科医師による診療又は治療」の対価とは社会通念上疾病の診療又は治療として必要と認められるものに関するものでなければならず、「治療又は療養に必要な医薬品の購入」の対価とは、社会通念上疾病の治療又は療養のために必要と認められる医薬品に関するものでなければならないというべきである。

(2) ところで、医療費控除の対象となる医療費の範囲については、その範囲が限定的に規定されているところ、その後の社会保険制度の充実や医療技術の進歩に伴い、所得税法七三条二項及び施行令二〇七条に規定する医療費よりもむしろこれに付随ないし関連する費用の方が重くなってきているのが実情である。このような実情を踏まえて、基本通達七三-三は、医薬費控除の対象となる医療費を施行令二〇七条で定める医療費とすることを前提としつつ、施行令の定める医療費の範囲を基本通達をもって拡大して、多額の医療費の支出に伴う担税力の減殺を調整するという医療費控除制度の趣旨を税務の執行面に反映している。

すなわち、基本通達七三-三は、控除の対象となる医療費の範囲を、「次に掲げるもののように、医師、歯科医師、施行令二〇七条四号に規定する施術者、同条六号に規定する助産婦による診療、治療、施術又は分べん介助を受けるため直接必要な費用は医療費に含まれるものとする。」として、具体的には、

<1> 医師等による診療等を受けるための通院費若しくは医師等の送迎費、入院若しくは入所の対価として支払う部屋代、食事代等の費用又は医療用器具等の購入、賃借若しくは使用のための費用で、通常必要なもの

<2> 自己の日常最低限の用をたすために供される義手、義足、松葉づえ、補聴器、義歯等の購入のための費用

<3> 身体障害者福祉法三八条、精神薄弱者福祉法二七条若しくは自動福祉法五六条又はこれらに類する法律の規定により都道府県知事又は市町村長に納付する費用のうち、医師等による診療等の費用に相当するもの並びに<1>及び<2>の費用に相当するもの

を医療費に該当するものとして列挙している。

(3) 原告によれば、お茶の水クリニックは、森下医師が東西両医学を止揚して第三の医学たる自然医学理論に基づく独自の自然医食療法を行っている世界で唯一の革新的なクリニックであり、その診療法の基本は、一切の化学療法を廃して、整腸に重点を置き、<1>玄米・菜食、<2>健康強化食品、<3>薬草、野菜茶を三本の柱として、諸々の難病の根治を図るというものであって、現行法の予定外の治療法を実践している世界で唯一の医療機関であるということになる。それゆえ、右自然医食療法は森下医師の独自の理論に基づく独自の治療法であることは明らかである。

したがって、原告が森下医師の指導の下、お茶の水クリニック、有限会社アオゲラ通販及びナチユラルフーズ・グルージア(以下「お茶の水クリニック等」という。)から自然医食品等を購入したことにより要した費用は、森下医師の指導する自然医食療法が同医師の独自の医学理論に基づいたものであることから、社会通念上疾病の診療又は治療として必要と認められるものの対価ということは到底できない。

それゆえ、いわゆる自然医食品等は薬事法二条一項に規定する「医薬品」に当たらず、その購入費用は施行令二〇七条により医療費控除の対象となる「医師による診療又は治療の対価」あるいは「治療又は療養に必要な医薬品の購入の対価」に当たらないと解される。

(4) 原告は森下医師の診療を受けるために要した宿泊費用も医療費控除の対象となると主張する。しかし、宿泊は施行令二〇七条に限定的に列挙されたもののいずれにも該当しない。そして、基本通達七三-三は、医療費控除の対象となる医療費を施行令二〇七条で定める医療費とすることを前提としつつ、施行令の定める医療費の範囲を右基本通達をもって拡大しているものの、宿泊費は基本通達七三-三に具体的に列挙されたもののいずれにも該当しておらず、実務上も宿泊費は極めて例外的な場合を除いて基本通達七三-三の医療費に含まれるとの取扱いはなされていない。すなわち、実務上、宿泊費が医療費控除の対象として取り扱われるためには、医師等の診療等のため入院の必要があるものの、病室やベッドが空いていないためやむを得ず病院等で準備した宿泊施設に宿泊する等、入院とほぼ同じ状況にあると認められる場合であり、しかも、右宿泊場所が医師等の診療等のための管理責任下にある等の客観的な要件を備えていることが必要とされている。基本通達七三-三の性格からみて、右基本通達により医療費控除の対象となる「医療費」と認められるためには右基本通達が列挙するものと同等あるいはそれ以上に「医師等の診療等を受けるために『直接必要な』費用」であることが必要であると解されるところ、通院のための宿泊は個人の意思に負うところが多く、また、宿泊場所も病院等で指定する宿泊施設だけでなく、個人で確保するホテル、旅館、民宿等多岐にわたっており、その費用が右基本通達に列挙された費用と比較して、それらと同等あるいはそれ以上に「医師等の診療等を受けるために『直接必要な』費用」ということは一般的には困難であることに鑑みると、極めて例外的な場合を除いて宿泊費を基本通達七三-三の「医療費」に含めない実務上の取扱は、十分に合理性を有しているということができる。

そして、原告が支出した宿泊費は、医師等の診療等のため入院の必要があるものの、病室やベッドが空かないためやむを得ず病院等で準備した宿泊施設に宿泊する等、入院とほぼ同じ状況にあると認められる場合の宿泊に要した費用でないことは明らかであるから、これが基本通達七三-三の「医療費」に該当するとは認められない。

(四)  本件係争各年の所得税に係る各更正処分の適法性について

(1) 平成三年分の医療費の金額について

<1> 原告が診療費等の支払金額として申告した金額金八万四三三〇円のうち、入会金五〇〇〇円及び年会費六〇〇〇円の合計金一万一〇〇〇円は社団法人生命科学協会に支払われたものであり、医師による診療又は治療の対価に該当しないことから、その全額が医療費控除の対象にならない。

したがって、医療費控除の対象となる診療費等の金額は、金八万四三三〇円から右金一万一〇〇〇円を差し引いた金七万三三三〇円である。

<2> 原告がお茶の水クリニック等に対して支払った金四八万三六九五円は、森下医師の指導の下に購入した自然医食品等の購入費であるから、その全額が医療費控除の対象にはならない。

<3> 原告が通院費として支払金額として申告したものは、お茶の水クリニックの治療等を受けるために要したとする通院費等金二四万一三七九円であるが、そのうち、金五万七五四九円は、一般の宿泊施設に宿泊するために支出した宿泊費及び食事代であるところ、宿泊費は医療費控除の対象とならないし、食事代も医師等による診療等を受けるため直接必要な費用と認められないから、結局金五万七五四九円は医療費控除の対象とならない。

また、原告は確定申告に際して、計算の誤りにより、金六八〇円を過大に計上していた。

したがって、医療費控除の対象となる通院費等の金額は、金二四万一三七九円から金五万七五四九円及び金六八〇円を差し引いた金一八万三一五〇円である。

(2) 平成四年分の医療費の金額について

<1> 原告が診療費等の支払金額として申告した金八万二〇九〇円のうち、高田厚生病院に対して支払った診療費等は、診断書のほか、原告の母である長嶺ヨシイ(以下「ヨシイ」という。)の身の回り品の洗濯代及びヨシイ持参の電気製品等の使用による電気代等のために支払われたものであり、医師による診療又は治療の対価には該当しない。

したがって、医療費控除の対象となる診療費等の金額は、金八万二〇九〇円から右金二七八〇円を差し引いた金七万九三一〇円である。

<2> 原告がお茶の水クリニック等に対して支払った金九九万五二一七円は、いわゆる自然医食品等の購入費であるから、前記平成三年分の医薬品等購入費と同様の理由により、その全額が医療費控除の対象とならない。

<3> 原告が通院費等の支払金額として申告したのは金二七万六五九三円であり、その内訳は、お茶の水クリニックの診療等を受けるために要したとする通院費二六万五九五三円及び高田厚生病院の診療等を受けるために支払った通院費等金一万〇六四〇円である。

しかし、お茶の水クリニックの診療を受けるために要したとする通院費等のうち金一一万八二四三円は宿泊費、食事代及び宿泊先への御礼等であり、また高田厚生病院の診療を受けるために支払った通院費等のうち金五七〇〇円は病院への御礼であり、宿泊費及び食事代については、前記平成三年分の通院費等と同様の理由により、宿泊先や病院への御礼等も「医師等による診療等を受けるため直接必要な費用」と認められないから、いずれも、医療費控除の対象とならない。更に、高田厚生病院の診療等を受けるために支払った通院費等には、外泊のための交通費金一八七〇円が含まれているが、同金員はヨシイが入院していた高田厚生病院から自宅へ外泊するため帰宅するのに要した交通費であり、通院のための交通費ではない。すなわち、基本通達七三-三に列挙された「医師等による診療等を受けるための通院費」には当たらず、「医師による診療等を受けるため直接必要な費用」とも認められないから、医療費控除の対象とはならない。

また、原告は確定申告の際、計算を誤って金一〇〇円を過大に計上していた。

したがって、医療費控除の対象となる通院費等の金額は、金二七万六五九三円から金一一万八二四三円、金五七〇〇円及び金一八七〇円の否認額並びに金一〇〇円の合計金一二万五九一三円を差し引いた金一五万〇六八〇円となる。

(3) 平成五年分の医療費の金額について

<1> 原告が診療費等の支払金額として申告した金二四万八〇四〇円のうち、次のものは、医療費控除の対象となる診療費あるいはその他の費用とは認められない。

高田厚生病院に対して支払ったヨシイに係る診療費等金一七万八九四〇円のうち、入院諸費用とした合計金五万円は、ヨシイの身の回りに必要な用品の購入に充てたものであることが明らかであり、また、診療費とした金額のうち合計金一万八一二〇円は診断書の他、ヨシイの身の回り品の洗濯代及びヨシイ持参の電気製品等の使用のための電気代等に支払われたものであり、「医師による診療又は治療の対価」に該当しないことから、医療費控除の対象とならない。更に、入院相談及び外泊等のために要したバス、タクシー代合計金一万〇一八〇円は、「医師による診療又は治療の対価」に該当しないことはもとより、平成四年分の通院費等で述べたとおり基本通達七三-三によっても、医療費控除の対象とはならないから、結局医療費控除の対象とはならない。

原告は確定申告に際して、計算を誤って、金五〇〇円を過少に計上していた。

したがって、ヨシイに係る診療費等の金額は、金三〇万九八四〇円から入院諸費用金五万円、診療費金一万八一二〇円及び外泊費等金一万〇一八〇円を差し引き、過少申告である金五〇〇円を加算した合計金二三万二〇四〇円となる。

高田厚生病院に対して支払った原告本人に係る診療費等金一万八六三〇円のうち、金四一二〇円は診断書料であり、「医師による診療又は治療の対価」に該当しないことから、医療費控除の対象とはならず、同病院に対して支払った原告本人に係る診療費等の金額は、金一万八六三〇円から金四一二〇円を差し引いた金一万四五一〇円となる。

原告がお茶の水クリニック等に対して支払った診療費等金五万〇四七〇円は、その全額を是認する。

したがって、医療費控除の対象となる診療費等の金額は、右のヨシイに係る診療費等二三万二〇四〇円と原告本人に係る診療費等金一万四五一〇円及び金五万〇四七〇円との合計金二七万七〇二〇円となる。

<2> 原告がお茶の水クリニック等に対して支払った金一一六万九八七五円は自然医食品等の購入費用であるから、その全額が医療費控除の対象とはならない。

<3> 原告が確定申告の際、通院費等として申告したのは、金二七万七二四七円であり、その内訳は、原告がお茶の水クリニック等の診療等を受けるために要したとする通院費等金一七万一三八七円及び高田厚生病院の診療等を受けるために要したとする通院費等金二万三九九〇円並びにヨシイが高田厚生病院の診療等を受けるために要したとする通院費等金八万一八七〇円であるとしている。

原告がお茶の水クリニックの診療等を受けるために要したとする通院費等金一七万一三八七円のうち金五万八三四七円は、宿泊費、宿泊先への御礼、生命科学協会の会費及び郵送料であることが明らかであり、医療費控除の対象とならない。

原告が支払ったとする平成五年三月二四日ないし同月二五日の金四万四六九三円、同年七月二三日ないし同月二四日の金四万三七三一円及び同年八月二一日の金二万五五六〇円は、交通費と宿泊費の区分が不明であることから、原告が平成四年一二月二七日ないし同月二八日に要した二人分の交通費金二万二八八〇円を通常の交通費として認定し、これを基に平成五年三月二四日ないし同月二五日及び同年七月二三日ないし同月二四日については、各金三万四三二〇円、同年八月二一日については、金二万二八八〇円とそれぞれ算定した。

したがって、お茶の水クリニックの診療等を受けるために要した通院費等の金額は、金一七万一三八七円から右金五万八三四七円を差し引いた金一一万三〇四〇円となる。

ヨシイが高田厚生病院の診療等を受けるために要したとする通院費等金八万一八七〇円のうち入院諸費用とした合計金八万円はヨシイの身の回りの品の購入に充てられたことが明らかであり、医療費控除の対象とはならず、また、入院交通費とした金一八七〇円も外泊に係る交通費であるので、平成四年分の通院費等と同様の理由から医療費控除の対象とならず、結局、ヨシイが高田厚生病院の診療を受けるために要したとする通院費等金八万一八七〇円は全額が医療費控除の対象とはならない。

なお、原告が高田厚生病院の診療等を受けるために要したとする通院費等金二万三九九〇円はその全額を是認する。

以上から、医療費控除の対象となる交通費等の金額は、右のとおり、原告がお茶の水クリニックの診療を受けるために要したとする通院費等金一一万三〇四〇円及び高田厚生病院の診療等を受けるために要したとする通院費等金二万三九九〇円の合計金一三万七〇三〇円となる。

(4) 原告は給付補填金として、会津高田町から平成三年分金六万二四〇〇円、平成四年分金九万四二〇〇円、平成五年分金二三万〇七〇〇円をそれぞれ需給し、福島県市町村職員共催組合から平成四年分金二三〇〇円を受給した。

(5) したがって、原告の医療費控除の対象となる医療費の金額は、平成三年分金二五万六四八〇円、平成四年分金二二万九九九〇円、平成五年分金四三万四〇五〇円であり、給付補填金は、平成三年分金六万二四〇〇円、平成四年分金九万六五〇〇円、平成五年分金二三万〇七〇〇円、所得税法七三条一項所定の差引額はいずれも金一〇万円であるので、原告の医療費控除の金額は、平成三年分金九万四〇八〇円、平成四年分金三万三四九〇円、平成五年分金一〇万三三五〇円となる。

そして、本件各更正処分における医療控除の金額は、被告主張の医療費控除の金額を超え、平成三年分ないし平成五年分の所得税の金額は被告がなした更正処分の範囲内であるから、本件各更正処分はいずれも適法である。

(6)<1> 被告は、原告から提出されていた本件係争各年分の所得税の確定申告書について審理したところ、総所得金額から控除される所得控除のうち、医療費控除の適用を受けるため、原告が医療費として支払った金額の内容を記載した書類及び領収書等(以下「医療費の内訳書」という。)が提出されていたが、右医療費の内訳書の金額を医療費控除の対象として認めることが適正であるかどうかについて確認する必要が認められたため、原告の本件係争各年分の所得税の申告内容について調査を行うこととした。

<2> 被告は、右調査のため被告所部職員を原告方に臨場させ、原告から右医療費の内訳書について内容の聴取、確認を行ったところ、右医療費の内訳書の中には所得税法七三条及び施行令二〇七条で規定する医療費控除として認められない支払が含まれていたため、原告に対し再三説明を行うとともに本件係争各年分の所得税について修正申告書の提出のしょうようを行った。

しかしながら、原告は、立法の趣旨からすれば医療費の内訳書にあるものは全て医療費控除の対象として認められるべきである旨主張し、本件係争各年分の所得税に係る修正申告書の提出には応じなかったことから、被告は、医療費の内訳書から医療費控除の対象として認められる金額を算定して本件更正処分等を行ったものである。

<3> また、所得税法二三四条一項所定の質問検査による税務調査は、租税実体法によって成立した抽象的な納税義務を具体的に確定するための事実行為であって、課税処分とは本来別個のものであるから、調査手続の違法は、それが刑罰法規に触れたり、公序良俗に違反する等およそ税務調査を行ったとはいえないと評価されるほど違法性の著しい場合を除いては、課税処分の取消事由とはならない。したがって、被告所部職員の調査手続及びこれに基づく本件更正処分等は何ら違法のそしりを受けるものではない。

(五)  施行令二〇七条は、原告が「自然医食品等」を購入することを制限するものではなく、ただ単に「自然医食品等」の購入費が医療費控除の対象とされないというだけであるし、そもそも租税法の定立については国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態について正確な資料を基礎とする立法府の裁量的判断に委ねられているのであって、その裁量的判断が著しく不合理であることが明らかでない限り、違憲とはならないというべきところ、所得税法の医療費控除の制度が医療費が多額で異常な支出となる場合における担税力の減殺を調整する目的で創設されたものであり、所得税の公平な負担を図るための制度であることに鑑みると、所得税法七三条二項及び右条項の委任を受けた施行令二〇七条が、医療費控除の対象となる「医師又は歯科医師による診療又は治療の対価」及び「治療又は療養に必要な医薬品の購入の対価」を社会通念にしたがって判断することにしていることが著しく不合理であるといえないことは明らかであるから、施行令二〇七条は憲法一三条に違反しないと解される。

4  平成四年分及び平成五年分の各過少申告加算税賦課決定処分の適法性について

被告は、平成四年分及び同五年分について、更正処分により原告が納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法六五条四項に規定する正当な理由があるとは認められないものであることから、同条一項の規定に基づき、過少申告加算税の賦課決定処分を行ったものである。

五  主要な争点

1  本件訴えの提起は出訴期間を経過してなけれた不適法なものか。

2  原告が自然医食品等の購入のために支払った代金、医療機関で診療を受けるために宿泊施設に支払った宿泊代金は医療費控除の対象に含まれるか。

第三当裁判所の判断

一  争点1について

1  甲第一二ないし第一四号証、第一五号証の一、二、第一六号証、第一七号証の一、二、第二二号証の一、二、原告本人尋問の結果、前提となる事実及び弁論の全趣旨によれば、次のとおりの事実を認めることができる。

(一) 被告は原告に対し、平成六年七月五日付で、本件更正処分等をした(甲第一二ないし第一四号証)。

(二) 原告は被告に対し、平成六年七月一四日、本件更正処分等に対して本件異議申立てをした(甲第一五号証の一)。

(三) 被告は原告に対し、平成六年一〇月一三日付で、本件異議申立てをいずれも棄却する旨の決定を行った(甲第一五号証の一、二)。

(四) 原告は国税不服審判所長に対し、平成六年一一月七日付で、本件更正処分等の取消を求めて審査請求(以下「本件審査請求」という。)を行った(甲第五号証、第一六号証、第一七号証の一、二、第二二号証の二)。

(五) 国税不服審判所長は原告に対し、平成七年一二月一二日付で、本件審査請求をいずれも棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)を行うとともに、原告に対し、同月一四日付で本件裁決書謄本を発送し、これは同月一五日、原告方に配達された(甲第二二号証の一、二、弁論の全趣旨、原告)。

(六) 原告は平成八年三月一五日、当庁に対し、本件訴えを提起した(弁論の全趣旨)。

2  これに対して、原告は、平成七年一二月一五日、本件裁決書謄本の配達を受けたものの、誰が受領したか、受領後どのように保管されていたか、原告が本件裁決書謄本が送達されたことをいつ知ったかについては、同日に本件裁決書謄本を見ていないことは確かであると言うだけで、原告の妻が受領し、原告方玄関の傘立てにぶら下げてあるナイロン袋か入り口の段ボール箱に入れておいたかもしれないが定かでないと主張し、その本人尋問でも、右の諸点につき同内容の供述をする。

しかし、他方、原告はその本人尋問で、本件訴えにかかる訴状を当庁に提出するに際して配達日指定郵便で郵送したり、郵送前に当庁に対して本件訴えを出訴期間内に提起するためにはいつまでに郵送すればよいかを質問したとも供述しており、これらの供述に照らせば、原告は出訴期間について注意を払っていたことがうかがわれるが、そのような原告が、本件裁決書謄本を誰が受領したか、配達受領後どのように保管していたか、原告自身がいかなるきっかけで本件裁決書謄本の配達されたことを知ったかについて記憶がないということは容易に信用できない。

また、原告はうつ病に罹患しており、医師から重要な決定等は先送りするように指導されていたことから、書類等を閲読する日を日曜日と決めていたので、本件裁決書謄本が配達された平成七年一二月一五日ではなく、次の日曜日である同月一七日以降に、本件裁決書謄本を閲読したと主張し、原告本人尋問でも右主張に沿う供述をしている。

しかし、他方、原告はその本人尋問で、本件裁決にかかる手続が原告にとり重要であったことを認めており、本件裁決書謄本を閲読すること自体は原告が重要な決定を行うこととは異なるのであるから、前記の理由で本件裁決書謄本を配達日の後に閲読したとの供述は直ちには信用できない。

しかも、前記のとおり、原告はその本人尋問で、本件訴状を配達日指定郵便で郵送するに際して、当庁の職員に対して、本件訴状を出訴期間を経過することなく郵送するにはいつまでに郵送すればよいかを質問して平成八年三月一五日までに郵送すればよいとの回答を得たと供述している。

しかし、右職員から同日までに郵送すればよいとの回答を得るためには、原告がいつ裁決があったことを知ったか等について右職員に対して告げることが必要であるのに、原告は右職員に対して右のような事情を告げたことはないと供述する他、しかも、原告が得た右の回答内容に照らせば、右職員は原告が平成七年一二月一六日に本件裁決があったことを知ったという前提で回答したことになるが、原告の主張及び原告の本人尋問における他の供述に照らしても、右のようなやりとりをしたことはうかがえず、他方、原告が同月一六日に本件裁決があったことを知ったとすることは、原告の同月一七日以降に本件裁決書謄本を閲読したとの主張及び供述に反することになり、原告の右供述は容易に信用できない。

そして、原告は平成七年一二月一五日、本件裁決書謄本を受領していない旨主張し、その本人尋問でもその旨供述するが、右の原告の主張内容及び供述態度等に照らせば、原告の右供述は直ちには信用できない。

3  ところで、行政事件訴訟法一四条一項は、取消訴訟は、「処分又は裁決があったことを知った日」から三箇月以内に提起しなければならないと規定し、同条四項は、右出訴期間は、処分につき審査請求をすることができる場合において、審査請求があったときは、その審査請求をした者については、これに対する「裁決があったことを知った日」から起算されると規定しており、この場合には「裁決があったことを知った日」を初日として右出訴期間に算入すべきものと解される。

そして、右「裁決があったことを知った日」とは、当事者が書類の公布、口頭の告知その他の方法により裁決の存在を現実に知った日を指すものと解されるところ、裁決を記載した書類が当事者の住所に送達される等のことがあって、社会通念上裁決のあったことを当事者が知り得べき状態に置かれたときは、反証のない限り、その裁決のあったことを知ったものと推定することができると解される。

そうすると、本件においては、前記認定のとおり、本件裁決書謄本が原告方に対して平成七年一二月一五日配達されていることが認められる一方、原告において本件裁決書謄本が配達されたことを右同日以降に知ったことを認めるに足りる証拠は存在しないので、原告は、右同日に本件裁決がなされたことを知ったものと推認するのが相当である。

以上の事情に照らせば、本件訴えについての出訴期間は平成八年三月一四日までであったのに、原告の本件訴えは同月一五日に提起されたものと認められる。

第四結論

以上の次第で、原告の本件訴えは出訴期間を経過した不適法なものであるから、その余の争点について判断するまでもなく、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 吉井隆平 裁判長裁判官木原幹郎は退官のため、裁判官野口佳子は転補のため、署名、押印できない。裁判官 吉井隆平)

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